真実、それは。 (俺の屍を越えて行け)
割とマイナーかなあ?
PSゲーム「俺の屍を越えて行け」のお話です。
CPは黄川人×初代当主
初代当主の名前は「御守 悠凪」(みもり ゆうな)です。
ぱっと思いついて決めた割に良い名前になったと思っています。
後、ちょっと独自設定を。
あ、ネタばれになりますのでそれが嫌な方は読まれないようにしてください。
神と人との混血が「朱点童子」であり、混血することで大きな力を持つのであれば一族で一番能力的に強いのはちょうど半分半分の血を持つ初代当主であるべきだと思うんですよ。
だって「昼子」だって「黄川人」だって半分半分の血なわけですし。この二人と初代当主は母親だって双子です。
父親の方はどっちも普通の人間…というか初代当主の父親の方が武家として鍛えた人なので強い気が。
ならばあの二人の異常な強さに比べると初代当主のパラメーターはありえないのではないか、と。
あの二人が双子なら突然変異で強かった、でも納得しますけど姉弟ですからね。
それが気になって一つ設定を作りました。
それは、「初代当主の能力は天界側の作為によって大半を封じられている」というものです。
簡単にいえば「黄川人」のように天界に反旗を翻さないように首輪をつけているんですね。
で、そのせいで「呪い」にあっさりかかってしまったので彼女の代でやり遂げさせるのではなく徐々に力をつけさせ、代々神々とと交わらせる事で血をもって天界に逆らうような事をしないようにしたのではないか、と。
ええ、初代当主が一番かわいいからつけた中二病設定だと言われたら反論できませんが。
知らないでいられたら、幸せだったのかもしれない。けれど。
知ってしまえば、もう戻れない。
まだ寒さの厳しい2月初め。女性が一人、相翼院の前に立っていた。
かつて天女が降り立ったとされるこの場所も、鬼の住処となって久しい。
女一人で来るような場所ではないというのに、彼女はまるで当然のようにその場所にいた。
細い手足、柳のようにすらりとした姿。
…だが、寒風に揺れる青い髪と腰の刀が彼女を普通の女性とは一線を画した存在に変えていた。
「黄川人…」
彼女の唇から言葉が発せられた。
「黄川人、いないの?」
「僕を呼んだ?悠凪」
彼女の声に応えたのは半透明な姿をした少年だった。
「どうしたのさ?今月、君はお休みするって聞いたのに……一人でこんな所に来てさ?何?子供たちが心配で追いかけてきたの?」
「…いや」
ゆるゆると彼女…御守悠凪は首を横に振った。
「私は黄川人。お前に会いに来たんだ」
「僕に?へぇ・・・」
くすっと少年…黄川人は笑う。…嗤う。
「何かな?」
「…聞きたい事がある。…ここは少し寒いな…場所を移そう」
二人が移動したのは相翼院に程近い、古びた社だった。
鬼がはびこる今、ここに参るものもない…。
「・・・で?僕に聞きたい事って?」
悠凪はわずかに目を伏せ、細く息をついた。
そして黄川人からわざと視線を外すと口を開く。
「黄川人…というのは…本名か?」
「そうだよ。何?僕の名前がどうかした?」
黄川人の軽口は無視して悠凪は頬にかかる青い髪をかきあげた。
「そうか。やはり朱点童子というのは名前ではなかったんだな」
ため息のように吐き出された言葉に黄川人は彼女を凝視した。
「………へえ…驚いた。知ってたんだ…。いったいいつ、どうやって知ったんだい?」
一瞬凍りついた黄川人の表情が、歪む。
それは邪悪と表現していいであろう笑み、であった。
「『いつ』『どうやって』…か。さあ…な。それは私にも、よくわからない。ただ、気がついたら『見えた』。そして『理解』してしまったんだ」
もの憂げな声で彼女はそう告げると外していた視線を黄川人に向ける。
真正面から青い瞳に見つめられた黄川人は我知らずびくり、とその実態のない体を震わせた。
黄川人と彼女の力の差は歴然としているというのに、それでも彼をそうさせてしまうだけの何かが、彼女の視線にはあった。
「…それで、何?わざわざ僕の事を確認したうえで聞きたい事っていうのは、さ?」
理解できない圧力を振り払うように黄川人は口を開いた。
そうでなければ完全に気圧されてしまいそうだったのだ。
「…『真実』を」
短く悠凪は自分の求めるものを口にした。
「『朱点童子』の…そして『神々』の真実を。私が…私の子供たちが何のために、どうして『利用』されているのかを、知りたい」
「僕の言葉でいいのかい?僕は嘘をつくかもしれないのに?」
「…『嘘』はわかるよ、黄川人。何故かはわからないが…『理解』る。それに…おまえはこの事に関しては嘘をつくことはないと思う」
「そうしてそう思うんだい?」
「おそらくその『真実』こそが…一番残酷に私を傷つけることができるから。だからお前は…『嘘』は言わない。…違うか?」
彼女の瞳は、静かだった。
「フ、フフ…アハハハ!すごいな…良くわかってるじゃないか!悠凪…すごいよ!本当に…アハハハ!いいよ…話してあげるよ。君の…君たちの知らない『真実』ってやつをね…!」
黄川人の語る『真実』を悠凪はほとんど表情を変えることなく最後まで聞き終えると小さくため息を漏らした。
その小さなため息が、彼女の『真実』に対するたった一つの感想のようだった。
「つまらないな…もっと驚いてくれればいいのに」
「…そう、言われてもな。『利用』されているのは『理解』していたし…」
そこで言葉を切ると何か思う所があったのか、ゆるく首を振り、もう一度ため息をついた。
風に乱れた青い髪をかきあげる。
「もうひとつ…聞きたい」
「?」
「なぜ、おまえは天を…人を、憎む?」
「そんなの、聞くまでもないだろう!?」
「…存在を利用された上に父を殺し、母をさらい辱め…だから、憎いの?」
怒りに声を荒げる黄川人とは対照的に、悠凪の声はあくまで静かだった。
それが余計に黄川人のいらだちをつのらせる。
彼女の落ち着きが理解できない。…もっと取り乱し、嘆いたり怒ったりしてしかるべきだろ言うのに!
「そうさ!君だってそうだろう!?僕が憎いだろう?殺したいくらいに…殺しても足りないくらいにさ!!」
「…………そう…でも、ないな」
悠凪の言葉は小さく、風に紛れてしまいそうなものだった。
だが、黄川人は確実に彼女の言葉を聞きとった。
その、否定の言葉を。
「君は…馬鹿なんじゃないか!?どうして、僕が憎くないなんて言える!?」
「…なら…聞こう。なぜ、私がお前を憎まねばならない?」
静かな声だった。哀しいまでに。
「父母の敵…?その顔もぬくもりも何も覚えていない人を親として…その敵だから、と憎めるほど私は単純にできていない。短命、種絶の呪い?…この都で2年に満たず死んでゆく幼子が一体どれだけいると思う?己すらわからぬまま、死の意味も知らぬまま死んでゆくその子たちに比べれば、不満を言う事などできると思うのか?通常の生まれとはいえぬが、愛する子供すら3人もいるというのに。…自分の幸不幸は自分で決める。私は…幸せだよ。たとえコマでしかなかったとしても。天界のコマだったとしても…私は」
「…嘘だ…」
「嘘じゃない」
「嘘だ!嘘だ、嘘だ、嘘だ!!君は嘘をついている!憎くない訳がない…憎まないわけがないんだ!!」
必死になって否定しようとする黄川人の様子は、頑是ない幼児のように悠凪の目に映った。
「黄川人」
悠凪の手が、黄川人にむかって伸ばされた。
半透明の触れられぬ身を、そっとなでるように動かす。
「…すまない、黄川人」
「!?」
「私はお前と同じにはなれない。お前の想いを理解してやれない。…おまえの孤独を、癒しては、やれない」
悠凪の声はただただ優しく、静かで。
「せめてこの腕が…おまえに触れられたら…あの子たちにするように、この手で…おまえを温めてやれたら、よかったのに…」
けして触れられぬ相手。憎まねばならない、倒さねばならない相手をまるで壊れ物を扱うような優しい手つきでなでるように白い手が動く。
カッと頬を紅潮させた黄川人が悠凪に向かって力を放とうとしたその前に、彼女はするり、と黄川人から離れた。
「…気づいていると思うけど、私、もうすぐ死ぬから…だから、もう二度と会えないね…黄川人」
静かなままの瞳は哀しみと優しさをたたえ…深い湖のようでもあった。
「だから…さよなら、黄川人」
短い別れを告げると悠凪は黄川人に背を向け、歩き始めた。
軽装に剣を佩いただけの姿はひどく華奢で…でも、なぜか手を出す事ができないもののようにも見えた。
それが…黄川人の見た、初代御守悠凪の最後の姿だった。
「ねえ…母さん」
あれからどれだけの時が過ぎたか、不自由な赤鬼の体から解放された黄川人は修羅の塔の最上階でお輪に甘えるように抱きついていた。
「かあさん…寒いんだ。あっためてよ…」
「………」
『寒い…』
心の奥で黄川人はつぶやいた。
自分の体を取り戻したというのに。あたたかい母の体に触れているはずなのに…寒い。
『悠凪…』
その名を持ったものは何人もいた。でも、今、黄川人が呼んだのは最初にその名を持った者…青い髪に青い瞳の、華奢な女性の事だった。
すべてを知った上で、自分をあたためようとしてくれた…ただ一人の相手。
彼女に触れた事はなかったのに。彼女のぬくもりを得た事はなかったはずなのに。
あの時の…手の感触を覚えているような気がする。その、あたたかさも。
『どうして…』
心に寒さを抱えながら、黄川人は自問する。
答えは、いまだ、得られない………。
うわ、日付を越えてしまった。
悠凪が自分や親の事にえらく淡白ですが、これは彼女の情緒不足です。
初代当主と最初の子って年齢が近すぎるのはやった事がある方はわかる事だと思うのですが、前書きから書いている独自設定で何らかの術を持って体だけ無理に成長させられている、という事になってます。
ちなみに子供もたぶん本人がわかってない間に昼子様の命令で男神が…という事になっていると。
一応子供への愛情は人並みにあるのですが自分自身や自分の親の事となると実感がないのか淡白になってしまいます。
黄川人への感情はたぶん限りなく同情に近い共感。
彼女は子供がいるから情緒不足のうつろな心でも満たされているけれどそのような満たす存在を持っていない黄川人を気の毒に思っています。
だからCP表記としては黄川人→初代当主くらいの方が近いのかも。
思い入れのある設定なので長く語ってしまいました。
長文で申し訳ありません。